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オークネット総研ニュースレター配信  ~世界の中古スマートフォン流通市場の実態を探る~
第18回:スマートフォン修理パーツの製造事情
~修理部材としてニーズが高い液晶ディスプレイはどこで作られているのか?~

2018年11月8日

 オークネット総合研究所(所在地:東京都港区/理事長:佐藤 俊司/URL:http://www.aucnet.co.jp /aucnet-reseach/)は、BtoBネットオークションを主軸とした情報流通サービスを提供するオークネットグループが運営し、独自の調査レポートなどを発表しています。当レポートは昨今注目される中古スマートフォン市場に関し、モバイル研究家・木暮 祐一氏に取材・調査を依頼し、ニュースレターとして不定期で配信しているものです。
 これまで当レポートでは、国内外の中古スマートフォン流通をめぐる実態に迫ってきました。中古スマートフォン流通の上で必要となるのが、破損した中古スマートフォンを修理・再生するためのサービス提供市場の存在です。修理・再生のためには修理パーツの供給体制が求められますが、それらのパーツはどういったところで製造されているのでしょうか。

1. スマホ修理部材の大半は深セン近隣都市で製造される

 世界中の誰もが持ち歩くようになったスマートフォン(以下、スマホ)であるが、こうしたスマホの全世界的普及によって、スマホを巡る様々なサービス市場が勃興し、世界中に大きな経済効果をもたらしている。そうした中で、今後の成り行きに注目しておきたいのが、スマホの中古端末流通やその修理を巡る市場の動向である。

 前回のレポートでは中国・深センのスマホパーツ市場を取材し、その盛況ぶりを報告させていただいた。その市場規模の推計こそ容易ではなさそうだが、とくにスマホ修理部材市場の中で多くを占めていたパーツがフロントパネルであった。スマホ端末の片面部分を占めている部材であり、このため落下等でダメージを受けやすく、修理のニーズも高いのであろう。

 フロントパネルは表面のガラスパネルと、タッチパネル機能を備えるデジタイザ、そして液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display、以下LCD)が貼り合されて構成されている。パーツ市場では、そのまま修理交換できるように完成されたフロントパネルも売られていれば、表面のガラスのみ、あるいはLCDのみ販売しているところもあった。部材のコストを考えれば、このフロントパネルを構成するパーツのうち、最も値が張るのはLCDであろう。そこで、この修理部材として販売されているLCDについて、もう少し詳細に取材を進めていくこととした。

 深センのスマホパーツ市場で販売されていたLCDは主として3種類に分類される。まず、破損端末などから取り外した「純正パーツの中古品」、端末メーカーから流通してきたか、あるいはメーカー指定の工場から出荷されてきたとされる「純正パーツの新品」、そして修理用部材として大半を占めていたものが、サードパーティが製造したという「OEMパーツ」である。

 この「OEMパーツ」とされる部材は、一見したところ純正部材と外見上は区別できないほど精巧に製造されているが、部材に端末メーカーのロゴが見受けられないところなどから純正部材ではないことが分かる(一部、サードパーティ製でありながら端末メーカーロゴが入っているなど純正部材を見せかけたOEMパーツもあるようだ)。この「OEMパーツ」は当然のことながら純正パーツに比べると安価であり、わが国におけるスマホ修理などでも利用されていると考えられる。OEMパーツはその品質がまちまちであり、信頼できるパーツを仕入れられるかはバイヤーの目利きにかかっているとされている。

 では、こうしたOEMパーツはどういったところで製造されているだろうか。深センのスマホパーツ市場で製造元をあたってみたが、明確な回答を得ることができなかった。それもそのはずで、端末メーカーの商標や特許の塊ともいえるスマホ端末の一部分を、当然のことながら端末メーカーの許諾も得ずに独自に設計製造しているのである。社会のニーズに対し、こうしたリスクを抱えてパーツ製造に臨んでいるのであるから、その所在がなかなか明らかにならないのは当然といえよう。

 残念ながら、スマホ用OEMパーツを製造するLCD工場を探り当てることはできなかったのだが、一般的なLCD製造の工程ならば取材を引き受けるという企業に巡り合うことができた。その工場は深セン市に隣接する恵州市にあるという。貴重な機会であるので、筆者はさっそくその工場がある恵州市に向かった。

 “世界の工場”と呼ばれる深センであるが、近年は人件費の高騰などもあり、製造工場の多くは深セン市近隣にある複数の都市に分散しつつある。とくに有名なのは、深セン市の西北側に隣接する東莞市で、この地域はかなり以前から衣料品や玩具、日用雑貨など重工業以外の各種工場が林立する工業地帯として栄えてきた。近年はパソコンやスマホなどのハードウェアの製造工場も増えているほか、スマホのカバーなどのアクセサリなどもその多くは東莞市で製造されているとされる。

 一方、近年、パソコンやスマホの電子部材の一部は、深セン市の東北側に隣接する恵州市で製造されるものが多くなった。深センから移転する工場が増えている地域とされ、とくにLCDやバッテリーなどで、恵州市で製造されたパーツを多く見かけるようになってきた。恵州市の中心部には珠江の大きな支流である東江が貫いており、深セン市にほど近いという地の利と、きれいな空気と水に恵まれた環境が精密電子部品の製造に向くとして工場の移転や進出が進んでいるという。


 今回LCD製造工程の視察取材を引き受けてくれたのは、台湾に本社があるSun-View Technology株式会社の中国恵州工場で、中国語での社名は旭璟光電科技(恵州)有限公司である。同社は2003年に液晶パネル製造を専業として設立され、台湾人の社長(董事長)を筆頭に現在約600人の従業員がこの工場に勤務しLCD製造にあたっている。日本の大手メーカー各社にも数々のLCD製品を納入しており、現在日本のクライアント向けの出荷が約60%を占めているという。また、同社のLCD工場の立ち上げの際には日本のLCDメーカーをドロップアウトした技術者が多数関わっているとされ、これにより日本の大手メーカーも十分に満足できる製造品質を保てているという。


2. LCD製造工程の実際

 同工場のフロア面積は15,000㎡の広さがあり、これを製造工程別に3フロアに分けている。LCD製造工程は、ガラス基板の上に液晶駆動用透明電極と信号線を形成するアレイ工程と呼ばれる、主にLCDのガラスパネル加工工程を1Fに、液晶の配向と封止処理といったガラスパネル仕上げを行うセル工程を2Fに、ドライバIC取付け、バックライト組付けなど電子部品の組付け工程を3Fに配置している。工場内の下層階から上層階に向けて製品になっていく流れである。

 まずはガラス基板の製造工程から主要な作業の流れを説明する。

基板洗浄工程:
 ガラス基板上のゴミや汚染を徹底的に除去するために洗浄する工程である。薬剤洗浄、紫外線洗浄、純水洗浄などがあり、基板表面状態に合わせた洗浄方式が行われる。ガラス基板は利用製品に応じて様々な厚みのものがあるが、この工場では、1.1mm、0.7mm、0.55mm、0.4mmの板厚材料を使用していた。マザーガラスのサイズは最大でたたみ一畳ぐらいのサイズがある。


成膜工程:
 ガラス基板上に、透明電極膜、配線膜、絶縁膜などを順次重ねて成膜していく工程である。スパッタ法と呼ばれる真空蒸着に類する方法で液体や高温気体にさらさずにガラス基板上に金属(電極膜)を均一に形成する(写真4)。続いて、ガラス基板表面に感光性材料であるフォトレジストを極めて薄く均一に塗布し、これに配線のパターンを描いたフォトマスク(写真5)を重ねて露光して感光させる。この露光されたガラス基板を現像し(写真6、7)、回路パターン(配線膜)を形成していく(写真8)。これを繰り返していく。



液晶滴下・貼合せ(組み立て):
続いて、ガラス基板に樹脂を塗布し、液晶の分子を一定方向に並べるための配光膜を形成する。そして2枚のガラス基板の間に液晶を流し込み、シール材で貼り合わせていく。


切断工程:

 ここまでの製造工程では、あらかじめ大きなベースガラスに多数のガラス基板をまとめて形成してきた。この段階で、必要なパネルサイズに切り分けていく(写真10、11)。


偏光板貼り付け:

 液晶材料の注入・封止を終了した液晶セルの両面に偏光板を貼り付ける工程である。


ドライバIC、バックライト取付、点灯検査:
 LCDパネルにドライバIC(写真14、15)やバックライト(写真16)など、電子部品を取り付けていく工程である。これまでの製造工程の中で工程ごとに何度も検査は行われて、不良品を外しながら工程を進んできているが、いよいよ最終的な点灯検査がこの行程で行われる。LCDパネルを点灯させ、欠 陥、色度、色むら、コントラストなどを丁寧に検査する(写真17)。


 なお、LCDの製造工程においては、ほこりや塵、汚染(有機物などによる汚れ)があると不良品発生の大きな要因となる。この工場でも製造エリアはすべてクリーンルームとなっており防塵服への着替えが義務付けられているほか、場所に応じてその清浄度がクラス10,000のエリア(1フィート立方中に0.5ミクロン以上の微粒子が10,000個以下)のところと、さらに清浄度の高いクラス1,000エリア(同、0.5ミクロン以上の微粒子が1,000個以下)があり、クラスに応じた無塵服の着用が義務付けられているほか、その個室ごとにエアシャワー室が設けられていた。食品工場にも劣らない徹底した防塵・清浄対策が取られていた(写真18、19)。


3. スマホのディスプレイも同様な工程で製造される

 一般的なLCDパネルの製造工程について取材させていただき、その工程の概略を説明させていただいた。今回視察させていただいた旭璟光電科技の工場の製造ラインに流れていたものは、取材当日は自動車のインパネなどに搭載する情報表示用LCDパネルなどが中心だった。この工場の場合はあくまでクライアント企業からの製造受注を受け、クライアント企業の要望に応じてLCDやモジュール等の設計を行うカスタムメードを行っている。主要な産品は、自動車、家電品、医療機器、計測メーター、工業用メーター、時計などのLCDパネルを製造している。

 ではスマホ修理用のLCDパネルも同様に製造されているのであろうか。パーツ事情に詳しい関係者によれば「スマホのLCDパネルの製造も基本的に同じ流れで製造されるものの、独自にカスタムパネルとして製造を行うには数千万円単位の開発費が必要になる」という。このため、実際にはLCDメーカーが汎用標準品を製造出荷し、タッチパネルとカバーガラスを組み合わせて実装し、これをスマホ修理用のOEMパネルとして販売するケースがほとんどであるという。

 たとえばiPhone用のフロントパネルでいえば、Appleの純正パーツといっても、実際にはLCDの製造を複数のメーカーに発注している。受注を受けたメーカーはもともと一般的なLCDの製造を行っているが、Appleからの要求を受けてカスタム製造を引き受け、それをiPhoneの製造を行うメインの組立工場に納入し、そこで組み立てを行うという流れになっている。前回のレポートで、深セン・華強北のパーツ市場において「友達」「深超」といったAppleに納入しているLCDメーカー名を掲げてパーツを売っている店舗があったことを記したが、そうしたLCDメーカーはApple向けにも納入するが、本来汎用のLCDパネルも製造出荷しているので、それらが市場に流れてOEMパーツとして売られること自体おかしな話ではない。車でもカー用品店で様々な純正と同等品質のパーツが販売されているのと同じである。

 前述のLCD製造工程の終盤で、LCDにドライバIC等の取付工程があったが、スマホのLCDの場合も、汎用のLCDにドライバICやタッチパネルなど組み上げる必要がある。ドライバICというのは、タッチパネルやLCDの発光をコントロールする重要な駆動回路である。しかし、ドライバICも汎用品が出回っており、それを組み合わせて比較的容易にスマホ用フロントパネルを製造できるという。関係者によれば「スマホ本体とLCDモジュールを接続する信号ラインの大半は汎用信号なので、フォーマットさえ合えばどんなディスプレイでも組み合わせられる。LCDとドライバICは、PCで言えばビデオカードとモニターみたいなもの。ただし処理能力や色再現性、応答速度は純正パーツと大きく異なる場合がある。単純に指定された表示信号に対して表示できるだけというのがOEMパーツ」であるという。

 となると、スマホ修理にはやはりOEMパーツの使用は避けたほうがよいのだろうか。 「言ってみれば、超高速なCPUに大容量のメモリ、高速なビデオカードが付いていても、ディスプレイがノーブランドの適当なものを繋いでいるPCセットのイメージである。ただし、きわめてクオリティの高いOEMパーツも存在する。当然、そうした性能は価格に反映されてくる」(前出の関係者)

 したがって、OEMパーツ選びは、結局のところバイヤーの目利き次第ということになってくる。バイヤーはOEMパネルの仕入れの際にどのようなところをチェックするのであろうか。 「LCDに格子模様(メッシュ)を表示させてちらつきなどをチェックしている。チューニングがいい加減なものだと、色の境目ににじみやゴーストなどが出る。また、赤や黒の色味なども差が出てくる」(前出の関係者)
また、パーツに使われる材料によっては純正パーツに比べ経時的劣化が早いものも見受けられるようだ。昨今のスマホは消耗品のようなもので、すぐに買い替えるから一時的でもきちんと動作してくれればよいというニーズも無いわけではない。しかし、修理して1週間で壊れてしまったとしても、文句は言えない。わが国の非正規のスマホ修理店のほとんどはOEMパーツを使って修理を行っている。修理店で独自に修理保証を付け、一定期間内で不具合が発生した場合は再修理を行うとしているところも多い。

 また、わが国では総務省が「登録修理業者制度」を設けている。スマホ等の修理の方法が適正で、修理された端末が法令で定める技術基準を満たしていることを確認できる修理を行う修理業者は総務大臣に登録を行うことができ、登録した修理方法にしたがって修理および修理の確認を行うことで、修理した端末に技適マークの再表示が可能となる。この端末修理で使う修理パーツは、「法令で定める技術基準を満たしている」ことが確認できるのであれば、純正品以外での修理に関しても問題ないことになっている。すなわちわが国ではOEMパーツでの修理であっても、技術基準を満たしていれば違法ではないという考え方なのである。この考え方は、前述の自動車部品などの販売と同様に、その品質検査や保証などがしっかりしていれば、第三者の製造によるパーツを消費者が選択して修正などができるというもので、世界的にもスマホ修理の考え方の主流になりつつある。

 次回は、こうした国内のスマホ修理におけるパーツ事情に目を向けてみたい。

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 1967年、東京都生まれ。黎明期からの携帯電話業界動向をウォッチし、2000年に(株)アスキーにて携帯電話情報サイト『携帯24』を立ち上げ同Web編集長。コンテンツ業界を経て2004年独立。2007年、「携帯電話の遠隔医療応用に関する研究」に携わり徳島大学大学院工学研究科を修了、博士(工学)。2013年、青森公立大学准教授。スマートフォンの医療・ヘルスケア分野への応用をはじめ、ICTの地域社会での活用に関わる研究に従事。モバイル学会理事/副会長、ITヘルスケア学会理事。近著に『メディア技術史』(共著、北樹出版)など。1000台を超えるケータイのコレクションも保有している。

<オークネット総合研究所 概要>
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